| 147の何がそんなに楽しいかってのは、その増幅構造にあると思っている。ふつう、なにかをしていて面白いな、と感じるのは、あらゆる波長が綺麗に重なり、それぞれが独自の振幅を持ちながらもハーモニーを奏でる瞬間だと思う。
どんなことでもそうだけど、奥行きが深く楽しさが持続するものってのはいくつもの波長があり、その波長を重ね合わせるのが難しい。が、難しいが故に本来の目的である調和に至る、重ね合わせるという行為そのものが楽しくなってくる。調和が訪れる瞬間の快楽への期待が、苦労を伴う行為を快楽の増幅器へと変えてしまうわけだ。
たとえば、誰が乗っても速いクルマが楽しくないのは、調律行為が伴わないからだ。調律するまでもなくすべてのお膳立てが整えられ、ただ享受するだけの快楽は底が浅い。それは操り手がその調律に関与できないという、致命的欠陥を抱えているからに他ならない。
Alfa Romeo 147 TwinSpark SeleSpeed、車名が快楽発生源そのままのネーミングとなっているこいつは、まずSeleSpeedと呼ばれるセミオートマチックトランスミッションで度肝を抜いてくれる。
普通に考えれば、クルマを操る不快な時間の9割が渋滞で走るシチュエーション。ならば、その9割を快適にしましょうというのは、至極まっとうな考えだ。底の底からきわめて高度なエンジニアリングに支えられた我が国のクルマは、ほぼ99%がこういった思想の元に開発されていると想像するのは難しくない。今や、安さを売り物にするクルマのATでさえ、きわめてスムーズな動作でどんな交通の流れにも紛れることができる。
147のセレスピードは、オートマチックなシティモードと、ステアリングに据え付けられたパドルスイッチかシフトレバーで操作するマニュアルモードを備えたセミオートマチックトランスミッションなのだが、シティモードは、この渋滞が極めて苦手。国産ATが遊星歯車と流体継手の組み合わせ、あるいは可変プーリーによるトルクコントロール装置でほぼつなぎ目を感じさせないスムーズな加速をするのに対して、通常の5速マニュアルトランスミッションとクラッチをロボットが操作するセレスピードはきっちり5回、加速のつなぎ目をしっかり見せてくれる。しかもトルクコンバータを持たないため、発生トルクに応じた各ギヤのカバー範囲の閾値あたりの速度域をいったりきたりするようなシチュエーションだとぎくしゃくした動きが出てしまい、不快な代物ですらある。
あらゆるシチュエーションでスムーズに走るという考えは、全く持ち合わせていないのがセレスピードという代物だ。
それでは、セレスピードって奴は箸にも棒にもかからないどうしようもないシロモノかというと、そんなことはない。渋滞以外であれば、シティモードでもそこそこちゃんと走る。よくできましたね、と褒めてあげたくなる程度ではあるが、とにかくまともに走る。
が、これはあくまでもオマケ。俄然精彩を放つのは、元気に走り回っているシチュエーション。一台だけで元気よく走り回る限り、セレスピードはマニュアルのいいとこ取り。シフトスピードは稲妻シフト(笑)だし、エンジン回転のコントロールまで行うから、きわめてスムーズ。MTの使い手でも、セレスピードを超えるのはけっこうな修行が必要なはず。 最初は操り手の意識外のところでシフトされるので、身構えられない分シフトスピードは遅く感じるが、慣れてくると素早さと正確さに気付かされる。さらに、さまざまなセンサーを元にシフトをコントロールしているようで、望まないところでのシフトアップ、ダウンもかなり抑制されている。いまのところ、シフトスケジュールで怖い思いをしたことはない。 よく考えてみると、これはかなり驚異的なことだと思う。どういったパラメータを利用しているかは知らないが、思いつきで短期開発されたようなシロモノとは違う気がする。かなり時間を掛けて熟成しているよう伺える。時間を掛けるところが、元気に走るシチュエーションをターゲットにしているあたりが、わくわくさせてくれるポイントなのかもしれない。 しかも、MTに慣れていれば、だいたいこの程度のアクセルの踏み込み加減ならこのあたりでシフトするだろうな、というのがだんだん読めるようになる。つまりはドライバ側で積極的に調和させることが可能になる。読みがはまると実に楽しい……お猿さんになれます(笑)。
ただ、これがシティモードと名付けられているところが?。そもそもシティモードって、お気楽のんびりしたいときに使うモンじゃねーの?って気がすごくする(笑)。元気に走るときは、ステアリングのパドルスイッチでマニュアル操作するんじゃないのかぁ?。
開発側は、ガシガシ走ることしかアタマにないようで、このあたりの唯我独尊さが、とってもおバカで素敵なのであります。
これを売らされる営業側は、とってもアタマが痛いんだろうなぁ(笑)。 | |